国王陛下の極上ティータイム
美しい寝顔に、子どものような無垢なあどけなさを感じる。

あれだけいつもクラリスをからかうくせに、今は天使のような顔をしているのだ。



「…可愛い」



いつもは周りを警戒して傍にことすら躊躇するクラリスだが、今は誰もいない。今この場にいるのは、寝ているランティスと自分だけだ。他の誰かを気にする必要なんて、ない。

そう思い至ったクラリスは、起きる素振りを一切見せないその頬をそっと指先で触れる。

それは不思議な感覚だった。今まで一度だってクラリスはランティスの顔を触れたことがなかった。触れることはおろか、傍にいることすら恐れ多い人だから。

それなのに今はこうして普通の恋人同士のように触れている。

ああ、そうか、とクラリスは思った。

いつかオルレアン伯爵家にいる頃、クラリスに恋をしろと、そうすれば幸せになれるからと説いた、あの侍女の言葉が今は身に染みて分かる。


今自分が感じているこれこそが、あの人が言っていた幸せだ。


クラリスは純粋に嬉しかった。

あの頃は絶対に分かるわけがないと思っていた幸せを、最近までずっと掴めないと思っていた幸せを、今自分は掴むことができた。

好きな人が自分を好きになってくれた。それに纏わり付く身分差も厄介事も全部投げ出して、単純にその事実は嬉しいのだ。


「好き」


その感情が降り積もっていく。
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