記憶『短編』
時雨
「いやな…季節だ…」

激しい通り雨の中、捜査の途中…後藤は、傘の中で、煙草をくわえた。


その瞬間、雨は止んだ。

「やはり…通り雨か」

後藤は舌打ちすると、傘を下ろした。

「先輩」

近づいてきた後輩はまだ、傘を差していた。

「やはり後ろから、心臓を一突きされています」

後輩の言葉に、

(去年と…いっしょかよ)

閑静な住宅街の外れの坂道。

ここは、毎年この季節になると、人が殺される。

同じところで、同じ箇所を刺されて。



「毎年、同じところで起こるんなら…ここでずっと張っていたら、いいんじゃないんですか?」

後輩の言葉に、後藤はキレて、言い返そうとしたが、

煙草をくわえていたことに気付いた。

(チッ)

心の中で、舌打ちすると、後藤は煙草を吸うのを諦めて、現場へと戻った。

後ろをついてくる後輩に、後藤は顔を向けずに、先程の質問の答えを、ぶっきらぼうにこたえた。


「この季節…9月と10月のいつか…それも、通り雨のときに決まって、殺される。当たり前だが、見張ってるし、周囲の住民にも、ビラやポスターを配り…」


後藤は、警察が封鎖している事故現場のそばで、そっと手を合わせている男に、気付いた。

「あなたは…」

後藤は、足を止めた。






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