記憶『短編』
「まだ…犯人は、捕まらないんですね」

男の言葉に、後藤は返す言葉がなかった。

「お恥ずかしい………」

と言った後、口を紡いでしまった後藤から、男は視線を外すと、坂の周りを見て、

「どうして…この季節は、花が咲かないんでしょうね。枯れたものだけの景色なんて、淋しすぎる」


もうすぐ冬を迎えるこの季節に、道に花など咲くはずが、なかった。


男の目から、涙が流れるのを、後藤は見た。


(この人の悲しみは、癒されていない) 


後藤は背筋を伸ばし、深々ともう一度頭を下げた。

「申し訳ございません」

後藤は、顔を上げることができなかった。

(我々警察が、無能なのだ)


後藤が、後悔と懺悔に苛まれている時……


突然、雨が降りだした。


気紛れな雨は、すぐに大粒になり、どしゃ降りになった。

それでも、顔を上げれない後藤の耳に、


住宅街の静寂を切り裂く悲鳴が、後ろからした。


先日の事件現場の方だ。


後藤が、頭を上がる前に、男が走りだしていた。






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