記憶『短編』
後藤は、一呼吸遅れてしまった。

慌てて坂を上がり、事故現場が見えるところまで来た時、雨がまるで、カーテンのようになり、

そこは、俗世と遮られた…映画の一部分のように、思えた。


そのスクリーンの前で、男は立ちすくみ、ただ…そこで行われた凶行に、動けなくなっていた。

息を飲む観客のように。

現場に、花を供えに来た若い女性が、背中から若い男に、ナイフで刺されていたのだ。 



「やめろ!」

後藤は、叫んだ。

激しい雨が、スーツに染み込み、体を重くしていたが、そんなことを気にしてる場合ではない。

動かずに、ただ立ち尽くす男の横を通り過ぎ、

後藤は、銃を抜いた。


後藤を見ても、逃げずに興奮して、さらにナイフを突き立てる若い男を、危険を判断した。

「離れろ!」

一度、空発を撃った後、

後藤は引き金を弾いた。


銃弾は、若い男の右太ももを撃ち抜き…さらに、左も撃ち抜いた。 

「ヒイイイ」

若い男は、ナイフから手を離し、倒れた。

ナイフで、刺された女も倒れた。



「ふう…」

雨にうたれながら、後藤は安堵の息を吐き、濡れながらも、流れた冷や汗を拭おうとした。



突然、視界がおかしくなった。

「がっかりですよ」

後藤の耳元で、男の声がした。



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