記憶『短編』
「え…」

後藤は、意識がなくなっていく中、悪魔のような言葉を聞いた。


「ナイフの突き方もなってない。逃げ足も遅い。まして、悲鳴を上げさすなんて…」

男はため息をつき、

「ちゃんと、上手く一突きしたら…すぐに殺せるのに」



後藤は、理解した。

(犯人は、やはり…)

男は、観客ではなかったのだ。

崩れ落ち、視界が霞んでいく後藤の目に、無表情な瞳を、前方に向ける男の顔が映った。

その瞳は、後藤を見ていない。


男は正確に突いたナイフを、後藤の背中から引き抜くと、ため息とともに言った。

「君は、なかなか頑張ったけど…無能過ぎたから、少しだけ話して上げるよ」


崩れ落ちた後藤は、声がでなかった。もう目も見えない。

「耳だけ、聞こえるでしょ。そう突いたから。1分だけ、命をあげる」

男は、後藤の銃を奪うと、両足を撃ち抜かれ、動けない若い男に、ゆっくりと近づいた。

「完全殺人者。折角、僕のようになれるチャンスを与えてあげたのに…君は、ふさわしくない」

男は、若い男の頭を撃ち、

そばに倒れている女に、突き刺さっているナイフを、足で押し込み、止めをさした。


「ああ…。五年間のゲームの終わりが、こんなんだとは……。演出は難しい。次、頑張らなくちゃ」

男は、どしゃ降りの雨の中、苦笑した。

後藤を刺したナイフを、手袋をはめて、指紋を拭き取ると、若い男に持たせた。





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