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その夜、結局タクミは寮に帰らなかった。

隣で眠るタクミの横顔をずっと見ていた。

昔から大好きだ。

こんな風に同じベッドに寝て育って来たけど…
昔とは全然違う気持ちで隣にいる。

タクミとなんて寝るんじゃなかった。

あの日からアタシの中のタクミは
幼馴染からただの愛しい男になった。

突然タクミが目を覚ましてアタシを見た。

そしてタクミの大きな手が私の頬に触れる。

「キョウ…いい男だからってそんなに見るなよ。」

「タクミ…どういうつもりでアタシを困らせるの?」

タクミは黙ってただ私を見つめてる。

「もう逢うのはやめよう。

部屋にも来ないで。」

「素直じゃねぇなぁ。」

「アタシはタクミの事好きじゃない。」

嘘だとわかってもそう言うしか無かった。

気持ちを打ち明けるには遅すぎる。

「わかった。

じゃあもう逢いに来てやらない。」

タクミは拗ねたみたいで
起き上がると服を着た。

「帰るの?朝ごはん食べる?」

アタシは急にまた前みたいにギクシャクするんじゃないかと心配になった。

「もう朝練の時間だからいい。」

「なら何か口に入れないと…」

「好きじゃないなら構うなよ。」

完全に拗ねてしまった。

「じゃあな。」

「…ごめん。好きじゃないなんて言ってごめん。」

「謝るなよ。帰りたくなくなるだろうが。」

タクミはアタシにもう一度キスした。

「だけどな、キョウ…次は俺からは逢いに来ない。
逢いたかったらお前から誘え。」

そう言って部屋を出てった。

アタシは身体の力が抜けて玄関に座り込んだまま
タクミを見送った。
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