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真相はドラマの打上げの後、
彼女が気に入ってたタクミの手を握ったというだけの事だった。

その瞬間を撮られて、
捏造されて面白おかしくこの世に出される事もあるんだと思った。

結局は彼女の事務所の力でその写真が出る事は無かったが
タクミはその件で精神的にかなりダメージを受けた。

その後、タクミは表に出る仕事に嫌気がさして
暫く休養することになった。

ウチの広告はそのまま流れることになって
タクミは完全にメディアから消えたわけでは無かったが
こういう世界はよっぽどの人じゃない限り
露出し続けていなければ
忘れ去られて戻ってこられない可能性が高くなる。

タクミはこの世界ではまだまだ替えの効く存在で
休業宣言もそんなに大きく取り扱われたワケでもなく
スポーツキャスターだってタクミの後続はすぐに埋まった。

アタシはタクミが心配で
自分からタクミを訪ねた。

タクミはアタシの顔を見ると
いきなりアタシに抱きついて来た。

「キョウ…逢いたかった。」

顔は以前よりもっとやつれて
今にも倒れそうなタクミをアタシは抱きしめた。

タクミはアタシの顔を見て
キスしようとした。

アタシは反射的にタクミの唇を避けた。

「…ゴメン。
でも…こういうの良くないよ。」

タクミはアタシを抱きしめた手を離すと
ソファに膝を立てて座った。

「わかってる。

キョウと不倫したらもう永久追放だよな。

でもやってもない事を干渉されてあれこれ書かれるなんてオレにはもう耐えられない。」

「タクミ…前にさ、モデルとか辞めてバレーのコーチとかしたいって言ってたよね?」

タクミはその事を忘れてしまったんだろうか?

「こんな世界、タクミには向かないよ。

アタシはバレーしてるタクミが好きだった。

だから…もうこんなトコに居ないで…」

タクミを楽にしてあげたかった。

昔みたいに元気よく笑うタクミを見たかった。

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