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タクミのお父さんが目を覚ましたのは
それから3日後だった。

幸いにも記憶はしっかりしていて
歩行以外の障害はないようだ。

タクミの気持ちは少しだけ楽になったみたいで
アタシも嬉しかった。

「リハビリしたら歩けるようになるって?」

「うーん…時間はかかるみたいだけど…
本人も頑張ってみるって。」

その夜、アタシはタクミと飲みに出かけた。

タクミの仕事が終わってから
近くの居酒屋で待ち合わせした。

タクミはアタシの顔を見て

「ありがとう。」

と言った。

たくさん思い出話しをして
程よく酔った。

アタシたちはただの幼馴染として最後まで接するつもりだったのに
家まで歩いて帰る道でタクミが何気なくアタシの髪に触れた。

アタシは驚いてタクミの手を避けた。

「あ、あぁ…ごめん。

そういうつもりじゃなかった。
ただ、髪が乱れてたから…

信じろよ。

俺だってもうレオに顔向けできない事はしたくない。」

その言葉を聞いて安心したけど…
寂しい感じもした。

それでもアタシたちはこれからずっとお互いの気持ちを隠して生きていかなければならない。

「じゃあ、また明日。」

タクミにそう言って手を振った。

タクミはアタシの手を握って抱き寄せた。

「ごめん、キョウ。

悪いとは思うけど少しだけ…
少しだけこのままで。」

アタシはタクミに抱きしめられたまま
立ち尽くしていた。

頭の中では間違っているとわかってても
不安でいっぱいの今のタクミを突き放せるほど冷酷にはなれなかった。





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