あなたに飼われたい
一樹の表情が一瞬、硬くなった。

しかし、一樹はすぐに答えた。

「君は覚えてないだろうが……君はとてもフレンドリーな人物で、誰に対しても下の名前で呼び捨てにするよう求めていた。俺も例外でなかっただけの話だ」

「えっ、私、そんなことを?」

「ああ。少なくとも俺はそう呼べと言われたからそう呼んでいる」

記憶をなくす前の自分は、明るい人物だったのだろうか? 今はそうは思えないが……。

「目を覚ました君と話したときは、えらく他人行儀になったなと思った」

一樹は笑いながら真夜の顔を見た。また胸の中がざわついた。

「吉川さん、じゃない。あなたは……一樹くん。ずいぶん馴れ馴れしいけど多分、私はそう呼んでた」

さっきの夢の中に出てきた男、あれは一樹だ。なぜ、彼が夢に出てきたんだろう。

「……それを思い出したのか。そうだ、それは当たっている。俺がどういう人物かは詳しくは思い出せないか?」

「うん……」

真夜はそう言ってうつむいた。

体温計の音がなった。

「37度8分か。まだ寝ておきなさい。飲みたいものがあったら注いであげるから言いなさい」

「……りんごジュース、ある?」

「もちろん」
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