あなたに飼われたい
とりあえず、この子たちの名前を思い出したいなあ……。

一樹は、あくまで真夜が自然に記憶を取り戻すことが大事だと言っていた。あれこれと情報を与えて、記憶の扉が一気に開くと、それらが処理しきれず、混濁してしまうこともあるかもしれないから、と。

真夜は、自分の飼い猫だという白猫と黒猫を撫でながら、2匹の名前について思いをめぐらせた。

「うーん。白と黒だから、シロちゃんとクロちゃんとかかも、安易だけど呼びやすい。とりあえず、今はそう呼ぼうかな」

私が飼っていた2匹。
猫を2匹も飼っていたということは、私は一人暮らしではなく、家族と一緒に住んでいたのだろうか。恐らく私は何かの仕事をしていただろう。一人暮らしで仕事をしながら2匹も猫を飼うのは難しい。と、いうことはやはり……

「うっ……いたたた」

まただ。いろんなことを思い出そうとすると激しい頭痛が邪魔をする。

一樹から渡された頭痛薬を飲み、椅子に腰掛ける。

今日はもう、思い出すのはやめておこう。

一樹は隣の部屋で何か仕事をしている。邪魔しないようにそろそろと浴室に入りシャワーを浴びる。

あの後、「ある人」から、私の着替え一式が届けられていた。下着から何まで全部。「ある人」というのは女性だそうだ。一樹のせめてもの心遣いか、そう教えてくれた。

真新しいものではなかったから、恐らく以前から自分が使っていたものだろう。「ある人」は、どうやら真夜の近くにいた人らしい。

思い出せるまで、全ては想像でしかないが。
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