あなたに飼われたい
「妹がどうかしたか?」

妹、と口の中で転がしてみた響は、どこか懐かしい感じがする。懐かしいというか、自分に当てはまるような感覚。

「私、妹だったんだろうか……」

一樹は答えず、コーヒーを啜る。

妹だったなら、姉や兄がいたのだろうか。それも思い出せない。
一番身近な存在だった人たちのこと。私はどんな人間だったのか。どんな人たちに囲まれて生きてきたのか。
思い出せないくらい希薄な人生だったのだろうか。
それとも、この世に居場所なんてないのだろうか。

じっと黙ってしまった真夜に、一樹は言った。

「明日、散歩でも行こう」

突然の誘いにきょとんとする。

「随分長いこと外に出てないだろう? 体にも心にも良くない。気分はふさぎ込んでないか?」

ああ、この人はなんて優しいんだろう。
その心遣いに涙が出てきた。

真夜の目から涙がこぼれるのを見た一樹は慌てふためき、立ち上がった。

「どうした? 何でいきなり泣く? どこか痛いのか?」



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