あなたに飼われたい
一樹がそばに寄ってくる。

真夜は涙を拭いながら途切れ途切れに言った。

「わ、私、知ってるはずの人のこと思い出せなくて、一人ぼっちかと思ってしまって。そしたら、一樹さんが、すごく、優しくて……すい、ません。なんか、止まらなくなって」

一樹は何も言わずに、真夜を引き寄せた。

一樹の手が後頭部をゆっくりと撫でる。

真夜は一樹の胸に顔をうずめる形になった。驚きで涙も止まる。

一樹はもう片方の手で真夜の背中をぽんぽんと優しく叩いたり、撫でたりした。

真夜は心臓が止まるような感覚に襲われたが、やがて心が満ち足りてゆくのを感じ、その心地良さに身を任せた。

知っている。

私はこの人を知っている。

この気持ちも知っている。

真夜は胸の高鳴りに任せるように、一樹の背中に腕を回した。
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