あなたに飼われたい
真夜は浴室のドアを開けた。

ほとんど使われていないのか、ホテルの客室のように綺麗だった。とても一人暮らしの男の部屋とは思えない。

棚にはバスタオルとフェイスタオルが何枚か、畳まれて置いてある。

シャワーはいつでも使えそうだ。

次にキッチンを見てみる。

やはり使用感はなく、ショールームのようだ。調理器具は一通りあるようだが、調味料の類は塩こしょうくらいしか置かれていない。

冷蔵庫も開けてみる。こちらはかなり充実していた。パックのうどん、プリン、ゼリー、、、病気になった時食べるようなものがたくさん入っている。
冷蔵庫の隣の棚には、レトルトのおかゆが何種類かと、カップスープ、バナナやプルーンなどの果物がある。プルーンは大好物だ。

おかゆを皿に空けてレンジで温め、プルーンをかじった。

おかゆをテーブルに置くと、猫が集まってきた。真夜をクンクンと匂い、おかゆの皿を匂う。

猫は好きだ。真夜は2匹の様子を見て微笑み、「ちょっとごめんね」と声をかけておかゆを口に運んだ。

温かいものを食べてだいぶ元気が出てきた。

冷たかった体に血がめぐっていくのがわかる。

頭もだんだん動いてきた。自分の置かれている状況について考える。どうして記憶喪失になったのか。あの男は誰なのか。自分は何者なのか……。

すると、急に恐怖に襲われ始めた。

何が怖いのかはわからないが、動悸がして体がガタガタと震える。

「……助けて、誰か」




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