エリート医師のイジワルな溺甘療法
その隙に、先生は焜炉の火を止めに行ってしまった。
「あ、待って。私が出しますから」
なんとかアラームを止めて、今度は慌てて立ち上がろうとするが、杖がないのでもたもたしてしまう。
「君はそのまま座ってろ。俺が準備するから」
先生のために作ったお料理だから、私が全部準備したいのに、つくづく自分が情けない。
脚は治ってきていて、今日の診断も骨には異常なし。先生は杖なしで歩いても大丈夫と言っていた。あとは、ヘタレな私が勇気を出すだけ。
ここからキッチンまではほんの少しの距離。途中壁で支えたりすれば行けるはず。
なんとか立ち上がって、一歩を踏み出した。
そんな私に気づいた先生は、少し驚いた顔をしている。
でも、飛び出してきて支える、ということはしなくて、そのままキッチンで待っていてくれる。
無言だけれど、応援してくれているのが伝わってくる。
杖に頼ってばかりだったから筋力が弱っていて、脚が震えるけれど、それでもなるべく壁に頼らずに行く。
脚を庇った歩き方だけれど、キッチンにたどり着き、焜炉の前で待つ先生の腕の中に飛び込んだ。
先生が大きく息を吐いて、私の髪を撫でてくれる。平気そうに見えたけれど、過保護だもの、内心はすごくハラハラしていたみたいだ。