エリート医師のイジワルな溺甘療法
「無類の怖がりのくせに、よくがんばったな」
「先生のためにお食事の準備したいから、必死でした」
「俺のため?」
「はい。先生に喜んでもらいたくて、お料理したんですから。準備もしなくちゃいけないと思って」
「……そのうち杖が邪魔になる。松葉杖を返す日も近いな」
松葉杖を返す日。
ほんの少し前までは、もっと遠い日のことだと思っていた。けれど、今ので自信を持つことができた。もっと練習すれば、すたすた歩ける日も近い。やっと、先が見えて来たんだ。
先生もうれしそうな顔をしてくれている。よかった。
「じゃあ一緒に準備するか。腹が減った。これ以上待たされたら、君を先に食べたくなる」
「え……私を?」
「もっと先だと思っていたんだけど、もう抑えられそうにない……今夜は、君を帰せなくなった」
先生の手のひらが私の頬をそっと包む。
やさしい瞳が、手のぬくもりが、私をほしいと言ってくる。
さっき先生がほしいと言っていたものは、私のこと──?
「もしも嫌なら、ここではっきり断ってくれ。諦めるから」
「そんなこと……私も……帰りたく、ないです」
先生の顔がゆっくり近づいてきて、私の唇があたたかいものに覆われる。
けれどそれはすぐに離れていって、私の頬も解放された。
「今は、これでおしまい」