エリート医師のイジワルな溺甘療法
『いってらっしゃい』
私が手を振ったときの、彼が見せてくれたちょっとはにかんだ顔が忘れられない。
年相応の色気を兼ね備えた、それでいてかわいい微笑み方だった。
まさか朝の見送りをする関係になるなんて、ほんのちょっと前までは思ってもいなかった。
安西先生はアイドルみたいに遠い存在。医者と患者なんて、通院の必要がなくなれば、もう二度と会うことはないって思っていた。
それなのに、プライベートで会うようになって、彼に愛されている。
脚を骨折して痛くて哀しい状態から一転、幸福になるなんて、なにがどう転がっていくか分からない。
運命の出会いって、小説の中のフィクションだと思っていたけれど、ほんとにあるんだ。
朝仕事に出かける彼は、私が見送るのがうれしいみたいだった。
あれは、私しか知らないデレ顔だ。
でも病院に着けば、敏腕整形外科医のキリッとした顔になる。
白衣を着て颯爽と歩いて、診察をするときの真剣な眼差しと、看護師に指示するときのてきぱきとした話し方。脚も治ってきたし、あのカッコイイ姿を私はもう見ることはないのかな。