エリート医師のイジワルな溺甘療法


今夜、彼の顔を見たらすぐに、決行する。

そうしないと、彼はいつの間にか主導権を握っていて、私は翻弄されるばかりになる。

最初は私がリードしていたはずなのに、徐々に彼のペースに巻き込まれてしまうのだ。

インテリアを選ぶときだって、料理を作るときだって、いつだってそうだ。ベッドのうえは……しょうがないけれども。

とにかく、ヘタレ女が天性のリーダーシップ男に負けないようにするには、彼が言葉を発せないようにしなければならない。

“勢い”これしかない。


今日の夕飯はカレーライスにした。結果次第で、夕食が二人分になろうが一人分になろうが、分量にこだわりがないものだ。


「うん。これで、いいかな」


彩り鮮やかにたっぷり野菜を入れたビーフカレー。彼のために作るのは、これが最後になるのかな。

そうならないことを願っているけれど、こればかりは彼のしあわせが大事だもの。


カレーを作っているうちに部屋の中はすっかり暗くなっていて、窓の外には群青色の空が広がっている。

そういえば、子どもの頃に写生の授業で描いた景色は、ひとりだけ群青色の空だったって言っていたっけ。空には雲じゃなくて、星を描いたのかな。

私だけに装備しているはずのロマンチストは、子どもの頃から培っているのかもしれない。


リビングの明かりを点けると、置かれたばかりのソファセットが目に入る。

玉砕しても、インテリアだけはそろえてあげたい。

彼がしあわせな結婚生活を営めるように。


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