エリート医師のイジワルな溺甘療法
街の明かりを眺めていると、窓にリビングのドアが開くのが映った。
スマートなシルエットが現れて、胸がトクンと脈打つ。彼が、帰って来た。
いつもならキッチンカウンターに鍵とバッグを置きに行くのに、今日はまっすぐ私のところに来る。
「ただいま、穂乃花」
足元にバッグを置いて、そのままふわりと抱きしめられた。
彼の匂いに包まれて、腕がやさしくて、それだけで涙が出そうになる。
それに、顔を見たらすぐに言うつもりが、もう彼のペースに巻き込まれ始めている。ダメだ、しっかり伝えないと……決めたんだから。
「お、おかえりなさい。あのっ、私、雄介さんにお話があるんです」
胸の辺りを押し返して見上げると、彼はちょっと驚いた表情をして、私をソファに誘導した。
そっと座らされて、彼が隣に腰かける。改まった感じになってしまって、すごく緊張する。けれどもう後戻りはできない。
「俺に、話?」
「は、はい。最後まで、黙って聞いてくれますか?」
「分かった。穂乃花の話したいことが終わるまで、黙って聞くよ」
心臓が踊るように鳴っていて、いますぐここから逃げ出したくなる。
でも、なんでも受け止めてくれそうな彼の優しい眼差しと微笑みが、私に勇気を与えてくれる。深呼吸をひとつして、膝に置いた手をぎゅっと握った。
「私、雄介さんがすごく好きなんです。多分病院で初めて会った時に『俺が全部綺麗に治す』と言われたときから」