エリート医師のイジワルな溺甘療法


膝の上に置いている自分の手は、硬く握り過ぎて血の気を失っている。でも、それ以上にぎゅうっと握りしめた。


「だから、この先もずっと……雄介さんの隣にいたいんです。あなたを、しあわせに、したい」


思っていたこと全部を、言い切ったと思う。

伝え終わった今も、彼は無言のままだ。

なにか言ってほしいけれど、聞くのが怖い。

目をぎゅっと瞑っていると、彼が深いため息を吐いた。


「ああ……参ったな」


ぼそっとつぶやかれた瞬間、私は弾かれるように立っていた。

こんな話は迷惑だったんだ。やっぱり、縁談があるから。

玉砕覚悟していたのに、彼のために身を引く決意もしていたのに、目に涙が溢れてくる。


「ごめんなさいっ」


困っている彼の姿なんて見られない。

走りづらい脚を一生懸命に動かして、一目散にドアを目指した。

早くこの場から消えたい。


「待て! 穂乃花!!」


声がしたのと同時に目の前に彼の体が現れて、避けることもできずにいた私は、ぽすんと受け止められた。


「ごめん、逃げないでくれ。頼む」

「あ……インテリアなら、彼女との新婚生活に、不備がないように、ちゃんとそろえますからっ。心配しないでくださいっ。落ち着くまで、会えないかもしれないですけどっ」


< 165 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop