エリート医師のイジワルな溺甘療法
手を掴まれて背中を支えられ、ソファまで誘導されて再び座る。
「ちょっと待っててくれ」
しばらくの間キッチンに消えていた彼が、温かい紅茶を持ってきてくれた。
「いただきます」
ほんのり香るレモンが、高ぶっていた心を落ち着かせていく。
「まずどこから話そうか」
「雄介さんの思う順番で、お願いします」
「そうだな。じゃあ最初からにしようか……院長の孫娘との縁談があったのは、事実なんだ。アメリカから帰ってすぐに話があった」
彼はカップをリビングテーブルに置き、ゆっくりと丁寧に話し始めた。
「正直いい話だと思った。一度はそうしようと決めて、新居としてここを買ったんだ。どのみち住む家は必要だったし、開業医をするために貯めていたお金と、アメリカで貯めたお金と合わせれば、楽に買えたから。それに開業資金を使うことで、自分の気持ちをリセットする目的もあった。まっさらな気持ちで、新しい生活をしようとしたんだな」
リセット……全部なくして一から始める。
孫娘との結婚で新しい一歩を踏み出すはずだったのに、彼はどうして断ったんだろう。