エリート医師のイジワルな溺甘療法
「え、初めてって……亡くなった彼女は?」
「違うんだ。彼女は恋人だったが、同志でもあった。愛情もあったが、同じ目標に向かう仲間だったわけだ。けれど、君は違う」
彼の指が、私の頬にある涙の痕を辿るように、ゆっくり動く。
「ごめん。俺がさっき『参ったな』と言ったのは、俺が言おうとしていたことを、君に先に言われたからなんだ。先を越された戸惑いと、湧き上がってくる歓喜とで、複雑な気持ちになっていた」
頬を滑っていた指先が下に下りて、私の左手に触れると、そっと握った。
そのまま彼の口元まで運ばれて、指先に唇がそっと触れる。
「昼間、俺が『足りないものがある』と言ったのを覚えてるか?」
彼の問いかけに対して、声も出せずにうなずいてみせる。
彼の言葉ひとつひとつがうれしくて、涙を堪えるのに一生懸命だ。
「あの写真に足りなかったもの。常にここに、この部屋にいてほしいもの。今もこの先も、俺にとって、なくてはならないものだ」
彼はポケットの中からなにかを取りだして、それを私の指にあてた。
キラリと光るもの。
え、これは、まさか……。
「それは、君だよ。瀬川穂乃花さん、俺と結婚してください」
私の薬指には、蜂蜜色の光に照らされて輝くダイヤモンドの指輪がある。
彼の真摯な瞳の中心には、私が映っている。
これは、夢じゃない。