エリート医師のイジワルな溺甘療法
ここは、藤村整形外科病院の第五診察室。
インテリアショップに勤める私が、仕事中に脚立から落ちて骨折をしたのは約五週間前のこと。
骨折自体はギプスのみで治せるものだったけれど、転落時に頭を打って怪我をしていたため、十日間入院していた。
検査の結果、頭の方はなんともなくて無事に退院し、ここに通うのは今日で二度めになる。
パーティションとアイボリーのカーテンで仕切られた狭い空間には、小さな医療器具やカルテが置かれたデスクと、簡素な黒い寝台がひとつ。
それと、私の主治医である安西先生がいるだけで、看護師さんはいない。
時折先生の背後にあるカーテンが揺れて、カルテのやり取りがされるくらいだ。
座っていても高身長を感じさせるすらりとした脚、低いけど張りのある声は穏やかで耳に心地いいもの。
ギプスカッターを扱う先生からはさっきまで見せていた笑顔が消えていて、長めの髪から覗く瞳はとても真剣だ。
カッターは見た目の恐ろしさ以上に切断音が激しいが、振動が少し伝わってくるくらいで折れた脚はちっとも痛くない。
ネットの情報など鵜呑みにしてはいけないな。
みっともなく怖がってしまって、先生は呆れていたかもしれない。
そんな反省をしつつ、先生をじっと見つめる。