エリート医師のイジワルな溺甘療法
先生の部屋は、つい最近できたばかりの新築マンションにあった。
こういうのをタワーマンションと言うんだろうか。わりと背の低めな街並みの中で、ひとつだけニョキッと飛び出ていて、すごく存在感がある建物だ。
先生の部屋は、三十一階の角にある2LDKだという。
階の通路は外に面していなくて、絨毯敷。まるでシティホテルの廊下のよう。
各戸の玄関ドアは黒々としていて、それだけで高級に思えてしまう。私が抱く医者のイメージにぴったりのマンション。超セレブ。部屋も広いんだろうな。わくわくする。
「さあ、どうぞ」
先生がドアを全開にして、私に入るよう促した。
「失礼します……わあ、広いですね」
両手を広げても全然余裕があって、横綱が五人入っても大丈夫そう。
備え付けの黒いシューズボックスがあって、壁のクロスはベージュ。全体的に落ち着いた雰囲気だ。
それに、ほんのりといい匂いがする。アロマは先生のイメージに合わないから、芳香剤かな。
「まずはリビングからだな?」
「あ、待ってください。杖にキャップ被せますから」
「キャップ?」
私はショルダーバッグの中から革製の赤いキャップを取り出して、不思議そうな顔をしている先生に見せた。
キャップは杖先に被せてマジックテープで留めるタイプで、ミニチュアのブーツみたいな形をしている。