エリート医師のイジワルな溺甘療法


痛い思いをするのは嫌、怖い。

足を動かすことができず、そのまま固まっている。動かなくちゃと思うのに。


「瀬川さん、俺を信じろ。大丈夫だ、怖くないから」


見上げればそこには先生の真剣な瞳があった。入院中も、この目には何度も励まされていたっけ。


『俺が綺麗に治すから』


先生は私の腕をしっかり持って支えてくれる。だからきっと大丈夫、平気。

恐る恐る、一歩を踏み出した。


「そうそう、ゆっくり。急がなくていいから」


励まされながらがんばれども、折れた脚を庇いながら歩くのは思ったよりもハードで、リビングの半分くらいまでで値を上げてしまった。


「すみません、本当ヘタレですよね」

「君は無類の怖がりだけど、ヘタレじゃないぞ。意外に根性があることを知ってる。いきなりフルタイムの立ち仕事をするくらいだからな」

「あ、あれは……ずっと立っていたわけじゃなくて」


もごもごと口を動かすしていると、先生がスッとしゃがみこんだ。直後、突然の浮遊感に襲われる。


「ベッドに行くぞ」

「は!? ベ、ベ、ベ、ベッドに??」


それまた、どういうわけで? そして、なんでお姫さま抱っこ?

パニックになりかけている私に、先生はニッと笑って言った。


「慌てるな。脚をマッサージするだけだから」


ベッドなのは、クッションだけじゃ体勢が悪いから。抱き上げたのは杖が遠くにあるから、らしい。

それならそうと、ちゃんと最初に言ってくれればいいのに。

やっぱり私は、先生にからかわれてる気がする……。

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