エリート医師のイジワルな溺甘療法


とりあえず、「こんばんは」と声をかけて笑いかけると、恥ずかしそうに笑って走って行ってしまった。

その先にいる母親らしき人に話しかけていて、ふたりして私の方を振り返り見た。

上から下までじろじろ見ているお母さんの方と目が合ったので、とにかく笑いかけてみる。インテリアショップの接客で身に着けた、親しみを込めた営業スマイルだ。

するとお母さんは慌てて会釈をして、男の子の背中を押してそそくさと買い物に戻ってしまった。

物珍しそうに見てしまったことを恥じているのかもしれない。

松葉杖の人が買い物してるのはすごく珍しいことだから、仕方がないかな。

私だって、一度も見たことがないんだもの。もしも立場が逆転していたら、同じ反応をするかもしれない。


スーパーの中は、小さな子たちが、キャッキャッとはしゃぎながら売り場を走り回っている。

子供がカートを任されていて、たまに勢いよく押して走ったりしている。

ふたつとも日常よく見る光景。それが今の私にとっては怖い存在。

さっと避けられないから、ぶつかりそうになったら嫌だなと思いつつも、買い物に集中し始めた。


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