エリート医師のイジワルな溺甘療法
先生の夕食は済ませてくることが多いから、私が作りたいのは朝食の方。
キッチンは使用許可をもらってあるし、道具類はなにがあるかも確認した。
お料理は冷蔵庫に入れておいて、レンジで温めるだけのものがいい。
というと煮物系の和食で、ぱっと思い浮かんだのは、肉じゃがときんぴらごぼう。
きんぴらごぼうなら、冷めていてもおいしい。
それにそうだ、肉じゃがって、たしか男性が彼女に作ってほしい料理ナンバーワンだっけ。
もしも本当に彼女がアメリカ人ならば、これからずっとアメリカンな食事ばかりになるはず。
ここでおいしいものを作れたら、先生に残る私の記憶は“おもしろい女だったな”から“いい女だったな”にグレードアップできるかも。
そして先生の胃袋を掴んでしまって、“手放すには惜しい女”になれたらいいな……なんて。
きっと先生は困るよね。
でも先生にはいつも翻弄されてるんだから、少しは悩んでもらいたいのが本音だ。
けれど、鉄壁要塞の極上男は、こんな平凡な手じゃ参らないかもしれないな……慣れているだろうから。
玉ねぎを籠に入れて、となりにあるジャガイモに手を伸ばす──その時だった。
ガツン! という音とともに、松葉杖にあり得ないほどの大きな衝撃を受けた。
たまたま体重をかけていなかった杖は大きく弾かれて床に落としてしまい、脚には、持ち手が不在のカートがぶつかっていた。