エリート医師のイジワルな溺甘療法


2リットル入りペットボトルの箱が二つ乗っているカート。なんでこんなのが……?


「い……痛っ……いたた」


ペットボトル入りのカートが邪魔で、咄嗟に座り込むこともできず、自分のカートで体を支えつつ足首を押さえて懸命に痛みを逃す。

ぶつかったのは、折れていた部分に近い。気絶しそうなくらいの激痛が襲ってくる。

先生、どうしよう。また、折れちゃたかも。やだ、どうしよう、先生助けて──。


「大丈夫ですか!?」

「松葉杖使ってましたよね? カートあたったの折れた方ですか!?」


周りにいた人たちが寄って来て、松葉杖を拾ってくたれり、カートを退けたり、脚の様子をみたりしてくれる。


「おいおい、早く冷やした方がいいんじゃないか?」

「私そのカートを勢いよく押した人見たわ。帽子かぶってマスクしてたの。この人にぶつかったのを確認した後、すぐに逃げていったわ」

「それマジ? この人を狙って、ってことかよ。いたずらにしちゃ、ひどい話だな!」


私の周りに人だかりができて、一部の人が店員さんを呼んできてくれた。


「病院に行きますか?」

「いや、それよりも警察を呼んだほうがいいんじゃないか。悪質だぞ」

「通院は、藤村ですか? 連れて行きましょうか」


あちこちから矢継ぎ早に話しかけられるが、痛みと戸惑いと恐怖で応えることができない。ただ首を横に振るだけだ。
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