【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
保健室へ行こうとひとりでぷらぷらと廊下を歩いていると
「あ、上田さん!」
後ろから男の子に声をかけられた。
振り返ると、同じクラスの木暮くんがジャージ姿で走ってきた。
「ねぇ、リョウ見なかった?」
「西野くん? 見てないけど、どうしたの?」
すると木暮くんはメガネの奥の人のよさそうな目を細めて『こまったなぁ』とつぶやいた。
「あいつ、体育の授業さぼってばっかりいるから荒木先生がキレてさぁ。俺にリョウを探して来いって怒鳴って」
「それで探しに来たんだ。大変だね」
「本当だよ。なんで俺が怒鳴られなきゃならないんだよ」
不満そうにしながらもきちんと探しに来た木暮くんは本当に優しい人なんだろうなぁ。
「上田さんはこんな所でなにやってんの? はやく着替えないと体育の授業はじまるよ」
まだ制服姿で廊下にいたあたしに木暮くんは不思議そうに首を傾げた。
「あ、あたし保健室行こうと思って」
「え? 具合悪いの!? ごめん引き留めて。保健室までついて行こうか?」