【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
驚いてあたしの顔をのぞきこむ木暮くんに、慌てて首を横に振る。
「ううん、大丈夫。ただ、ちょっとだるいから体育さぼろうと思っただけ」
「そう?」
それでも心配そうな顔をしている木暮くんに、思わずあたしは吹き出した。
「木暮くんって、本当にいい人だよね」
言いながらクスクス笑うと、木暮くんは不満そうに短めの髪をガリガリとかいた。
「それ、よく女の子に言われる。『いい人だよね』とか『優しいよね』とか。でも所詮俺はいい人止まりなんだよなぁ……。結局女が選ぶのは、リョウみたいなヤツなんだよ」
「ふーん。西野くんって、そんなにモテるの?」
みゆきちゃんたちはむしろ嫌ってるみたいだけど。
不思議に思って首を傾げて木暮くんを見上げた。
「え? 上田さんはああいうタイプに惹かれないの?」
逆に、質問されてしまった。
ああいうタイプって言われても、隣の席なのに一度も話したことないし。
思えば、あたし西野くんの声すら知らないかも。
知ってるのは、寝ている綺麗な横顔と、たくさんの悪い噂と、首筋に残る赤い印くらい……。