【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
嗚咽で言葉にならないあたしに、リョウくんはゆっくりと息を吐き身体を離した。
泣きながら崩れるようにその場にしゃがみ込んだあたしを、冷たい目で見下ろして心底煩わしげにため息をつく。

「悪いけど、そんなところで泣かれても迷惑なんだけど。用がそれだけならさっさと帰れよ」

そう、冷たい声であたしを突き放した。

誰の事も受け入れない
誰にも心を許さない
冷たく孤独で
でも、どうしようもなく魅力的な

ワルイオトコ

彼はゆっくりとあたしに背を向けリビングの扉を閉めた。



あたしはただ……


ひとり玄関に残されうつむいて唇をかんだ。

リョウくん。
あたしはただあなたを抱きしめたかった

孤独で冷たい彼の心を少しでいいから抱きしめてあたためてあげたかった


でも、それができるのはきっと

あたしじゃないんだ……


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