【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
彼の左手にそのシュシュがある事に、あたしはなぜか安堵した。
それはリョウくんが変わらず由佳さんを思い続けている証なのに
あたしの恋が叶わない証なのに。
「クリスマスイブだね。雪降るかなぁ?」
「まぁホワイトクリスマスとか、受験生には関係ないけどねー」
楽しそうに帰りの支度をするみんなの会話を聞きながら
教室を出ていくリョウくんを目で追う。
「……実花? またぼんやりしてる」
うわの空のあたしにみゆきちゃんが呆れたように声をかけた。
慌てて笑顔をつくりとりつくろう。
「あ、ごめん! ちょっとぼーっとしてた」
「……そんなに追いかけたいなら追いかければ?」
「え?」
首を傾げたあたしに、みゆきちゃんはリョウくんの出て行った扉の方を顎でさした。
「西野、追いかけて話したい事でもあるんでしょ? 追いかければ」
素っ気なくそう言ってあたし背中をどん、と押した。
「あ……うん」
なんでリョウくんの事をダイキライなみゆきちゃんがそんな事言うんだろうと思いながらも
あたしはカバンを持ってリョウくんの後を追いかけた。