【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
冷たい冬の空気に白い息を吐きながら校門を出て必死に走る。
しばらく行ったところでやっと地下鉄の駅へと降りていくリョウくんを見つけた。
「リョウくん……っ」
肩で息をしながら彼の名前を呼んだけど、あたしの声は届かなかったのか
リョウくんは振り返ることなく地下鉄の構内へと消えた。
学校から走り続けてすっかり疲れたあたしは
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら立ち止まり空を見上げた。
灰色の重い空。
雪が降り出しそうだな、なんて思いながら
リョウくんの後を追いかけてあたしも階段を下りた。
クリスマスイブだからなのかいつもより混み合った地下鉄の駅。
みんなどこか楽しそうに話をしたりケータイをいじったり。
たくさんの人で溢れた空間の中で人をぬうように歩いていると
リョウくんを見つけた。
こんなにたくさんの人がいるのに壁にもたれて立っている彼をすぐにみつけられる。
そんな些細な事で自分がどんなに彼を好きかを実感する。
きっと何百人の中に彼がまぎれていても見つけられる。
そんな気がした。
そのくらい
彼が好きだと思った。