【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「そうだ、木暮くん。キスマークってどうやってつけるか知ってる?」
優しそうな木暮くんならバカにせずに答えてくれるかな、と思って最近気になっていた疑問を聞いてみた。
木暮くんを見上げて自分の首筋を指さして首を傾げると
「はぁっ!?」
メガネがずり落ちそうなくらい大きなリアクションで、木暮くんが目を丸くした。
「何それ、キスマーク付けてくれって意味!?」
「ち、違う! 違う!! ただ不思議に思っただけ!!!」
『キスマークつけて』なんて、そんな事、言うわけないじゃない!
木暮くんの言葉に慌てて首をぶんぶんと左右に振る。
「びっくりした。俺、口説かれてんのかと思った。上田さん、そういう事は男に気軽に言わない方がいいよ」
「聞いちゃいけない事なの?」
「いや、そうじゃなくて……」
木暮くんは困ったように頭を掻きながら大きくため息をついた。
「そういう事は、好きな人に聞くといいと思うよ」
「ふーん、そっか。ありがとう、木暮くん。好きな人ができたら聞いてみる」
まるで小さな子供を諭すみたいにあたしの顔を覗き込む木暮くんに、あたしはいまいち腑に落ちないままうなずいた。