【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
あたしの涙で濡れた指先を眺めながら

「追いかけるって、どこに行くかも知らないのに……」

そう諦めたような表情で言うリョウくんの言葉にあたしは首を振った。

「もしかしたら、加藤先生の家にいくのかもしれない。今日はクリスマスイブだから」
「……?」

加藤先生の名前を出したあたしにリョウくんは驚いたように肩を震わせた。

「あの人、先生の彼女なんでしょ? リョウくんが言ってた『真面目で優しい婚約者』って、加藤先生の事だったんでしょ?」
「なんで、そんな事……」
「わかるよ! だって、あたしいつもリョウくんを見てたもん!!」

いつもリョウくんを見てた
いつもリョウくんの事を考えてた

だから、

リョウくんの好きな人が誰なのか
リョウくんがどんなにその人を好きなのか
わかりたくもないのにわかっちゃうんだよ……

「先生、川沿の教員住宅に住んでるって言ってた。だからそこに行けば会えるかもしれない……」

あたしの言葉を聞きながらリョウくんは迷っているように見えた。
涙ぐむあたしを見下ろして、彼女を追いかけない言い訳を考えてるように見えた。

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