【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
「お願い……。一度でいいから、彼女にリョウくんの気持ちを伝えてよ……」

必死に涙をこらえながらそう言うとリョウくんは小さく息を吐き出した。
茶色のシュシュがはまった左手をあたしの頭にそっと置いた。

髪の間に彼の長い指が差し込まれて
くしゃり、と優しく頭をなでる。


その心地よく暖かい感触に思わずリョウくんの手を掴んで
行かないで、一緒にいて、あたしのそばにいて……
そういってすがりたくなった。

でもその温もりはすぐあたしの頭を離れ
リョウくんは背を向けて歩き出した。

あたしじゃない女の人のところへ行くために。



本当は行ってほしくないよ
本当はあたし以外の女の人に会いになんて行ってほしくないよ

そばにいたいよ
例えリョウくんが違う人を思ってたとしても……


遠くなる背の高い後姿を見ながら
両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。



本当に、あたしはバカだ……。



でも、あんなリョウくんの顔を見たら他にあたしになにが言えた?

彼の背中を押す以外に一体あたしになにができた……?



あんな切なそうなリョウくんの顔見たら……

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