【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「失礼しまーす」
静かにドアを開き保健室を覗き込むと、白衣姿の保健室の先生が
「いらっしゃーい」
と、せっかく綺麗な顔なのにやる気のない表情で振り返った。
「先生、あたし今日生理痛がひどいから体育休もうと思って。一時間ここにいてもいいですか?」
「あー、いいよいいよ」
私の言葉に先生は軽く返事をする。
美人なのに気取ってなくて話しやすくて男女問わず人気のある保健室の先生は、こういう時も細かい事を聞かずに生徒を受け入れてくれる。
「痛み止め、ベッド、コーヒー、お煎餅。なんか欲しい物ある?」
「あ、じゃあコーヒーください」
先生の問いかけにあたしがそう答えると
「丁度私もコーヒー飲もうかと思ってたんだよねー」
なんて鼻歌交じりで立ち上がり棚の上のポットまで歩いて行く。
「ソファーに座ってていいよ。あと、そこの紙にクラスと名前書いといて」
「はぁい」
机の上にあるボールペンを取ろうとした時、白いカーテンで仕切られたベッドの方から少し掠れた、低い声が聞こえた。
「……俺も、コーヒー」