【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
「立ってるのだるいから終業式抜けて保健室行こうと思ったら、実花が泣きながら降りてくるからびっくりしたよ。
いったい何があったの?」

みゆきちゃんはあたしが着替えてる間に自販機で暖かいココアを買ってきてくれた。

冷え切った指先には痛いくらいに熱いココア。
みゆきちゃんから借りた大きめのジャージのそでで包むように持つとじわりと体が温まる気がした。

みんな終業式の最中でガランとひと気のない校内。

誰もいない視聴覚室で泣きじゃくりながら話すあたしの話をみゆきちゃんは静かに聞いてくれた。


「……だから言ったのに。西野には近づくなって」

今まで何度も聞いたみゆきちゃんのその言葉。
だけどそれはいつものきつい口調じゃなくてどこか優しく響いた。

みゆきちゃんの言葉に黙り込んで手の中のココアの缶をみつめていると

「あたしさぁ、前に西野にふられた事あるんだ」

プシッと音をたててミルクティーの缶を開けながら
みゆきちゃんがぽつりと言った。

「………え?」

みゆきちゃん、今なんて?

「実花ココア飲まないの? ぬるくなっちゃうよ?」
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