【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
……あ、誰かベッドで寝てたんだ。
寝起きなのか、少し不機嫌そうな声がやけに色っぽいなぁ。
そう思いながら振り返ると、白いカーテンの向こうからすらりと背の高い、黒髪の男が出てきた。
に、西野リョウくんだ!!!
驚いて目を丸くするあたしに気づきもせず彼はゆっくりと先生に近づいて
「濃いめのブラックで」
と注文をつける。
「昼寝のためにベッドを占領してタダでコーヒーまで飲もうなんて、ずいぶんいいご身分だね」
先生の皮肉に西野くんは軽く首をかしげて笑う。
「じゃあ、なんかお礼しようか。何がいい?」
コーヒーの準備をする先生を見下ろして気怠そうに黒い髪をかきあげながら、囁くようにたずねる。
「お礼って、何してくれるわけ? 西野くん」
先生は西野くんを挑発するように、気の強そうで綺麗な目を細めて彼を見上げる。
その視線に応えるように西野くんはさらに先生との距離を縮め、片手を壁についた。
「……何でも。鍵の締まる保健室に、ベッドがあれば先生の期待に応えることはなんでもできると思うけど?」
ぞくり、と身体の奥に響くような艶のある低い声でそう囁いた。
ふたりの間に漂う大人の雰囲気に、あたしは言葉を無くして固まっていた。
え、え!
なに、この会話。
保健室の先生と西野くんって付き合ってるの……!?
頭の中がパニックだ。