【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
リョウくんの姿を探して必死に走る。
校門を出て左に曲がりまっすぐに走っていく先にその背の高い後姿があった。
「リ、リョウくん……!」
白い息を吐きながら彼の名前を呼ぶと
呆れたように振り返る意地悪な彼の表情。
あのクリスマスの屋上以来ちゃんと顔をあわせるのは初めてで
少し緊張しながら彼の顔を見上げる。
「今日で、卒業だね」
肩で息をしながらそう言うとリョウくんは微かに首を傾げて小さく笑った。
「さっき2年生に囲まれてたでしょ? 教室から見てた」
そう言いながら彼に並んで歩き出す。
前まではあたしなんかお構いなしに歩いていたリョウくんが
今日はいつもより歩調をゆるめてあたしに合わせて歩いてくれた。
「なんか集団でボタンくれって言われたけど断った」
リョウくんが苦笑いしながらそう言った。
「あげればよかったのに」
彼がボタンをあげなかったことが少しうれしいのに
あたしはわざとそんな事を言う。
「名前も知らないやつにやるなんて、なんか不気味だろ」