【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 

「そういえば聞いた? 三年の時の担任だった加藤先生。この前結婚したって」

「うん、聞いたよ。奥さん年下らしいよね」

「そうそう! 美人らしいって噂聞いてさぁ。
ずるいよなぁー。俺なんてこの前彼女に振られたばっかりなのに」

悔しそうに唇をとがらす木暮くんが高校の頃とまったく変わってなくて
思わず吹き出した。

「あはは。そっか振られちゃったんだ。残念だったね」

「笑いごとじゃないよ。クリスマス直前に振られた惨めな俺の気持ちがわかる?
あ、そういう上田さんは彼氏いるの?」

「わたしは、そういうのは全然……」

苦笑いしながら答える。

「そっか、やっぱり幼稚園の先生って女ばっかりだから出会いがないとか?」

ビルの前の道に立ち木暮くんとそんな話をしていると
わたしの横を男の人が通りすぎた。

背の高い黒い髪の綺麗な後姿。
顔なんて見えてないのにその後姿だけで
ぎゅっ、と心臓が締め付けられた。

「あ……!」

いつも追いかけていた彼の後姿を間違うはずなんてない……。

思わず漏れた声に木暮くんが不思議そうに
わたしの視線の先を見た。

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