【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
西野くんは長い足を無造作に組んでソファーに座り、コーヒーの入ったカップに綺麗な唇をつける。
そのカップを持つ綺麗な長い指。
コーヒーを飲みこむたびに上下する喉。
眺めの前髪の間からちらりと見える、吸い込まれそうなほど真っ黒な瞳。
あたしは彼から目が離せなくなってしまう。
寝ている西野くんならいつも見ていたのに……
カップを口に運ぶなにげない仕草に
気怠そうに首を傾けた表情に
瞬きをするたびにふせられる睫毛に
ひとつひとつの動作に
まるで魅了されるようにひきつけられる。
先生に淹れてもらったコーヒーを飲むのも忘れて、ただうわの空で彼の事を眺めていると
「……何?」
西野くんが微かに眉をひそめ、不快そうな表情であたしの事を見ていた。
「あっ、ごめんなさい!」
こんな至近距離で思いっきり凝視してたらそりゃ気を悪くするよね。
おもいっきり見惚れていた自分が恥ずかしくて慌てて顔を伏せて目をそらす。
「ただ、起きてる西野くんをちゃんと見るのって初めてだなって思って」
あたしがそう言うと、西野くんが少し不思議そうに首を斜めに傾けながらこちらを見下ろす。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……誰?」