【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「4日くらい前に、俺がリョウのバーに飲みに行った時には彼女いるなんて言ってなかったのになぁ」
ふたりの姿を見送りながら不満そうにそう言った木暮くんが
わたしを振り返って驚いた声を上げた。
「うわ! 上田さんなんで泣いてるの!?」
「え?」
気付けばわたしの両目から涙が溢れてこぼれていた。
「あ、ごめ!……なんか」
慌てて手で涙を拭いながら
「なんか、わたしやっと
ちゃんと失恋してスッキリできた気がする」
そう鼻をすすって笑った。
ようやく初めての恋から卒業して
あたらしく一歩はじめられる気がする。
鼻を赤くしながらそう言ったわたしに木暮くんは小さく笑った。
「そっか。上田さんも失恋かぁ」
「えへへ」
「じゃあ、失恋したもの同士、今度どっかで飲まない?」
木暮くんはポケットティッシュを出しながらわたしに向かって言った。
「あ、ありがとう」
差し出されたティッシュで思いきり鼻をかんでうなずく。
「いいよ、あたしお酒飲めないけど」