【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
だ、誰?
今あたしに誰って言った?
「あ、あの。あたし上田実花って言って。同じクラスで、席も隣で……」
あたしの存在をまったく認識されてなかったのが軽くショックで、言葉につまりながら途切れ途切れにそう言うと
「ふーん」
まるで獲物を観察するかのような冷たい視線であたしの事を眺める。
そして興味を無くしたように大きくあくびをした。
……確かに、
一言もしゃべったことないけど、西野くんは教室で寝てばっかりいるけど……
もう1か月も隣の席に座ってるのに。
あたしの存在なんてどうでもいいような興味のない彼の態度に
ずきん、と心臓が痛んだ。
……ずるいなぁ。
あたしはずっと西野くんの事を見てたのに。
寝ている西野くんの横顔を、いつもすぐ隣でみつめていたのに。
西野くんはあたしにまったく興味がないなんて、なんだかすごく不公平だ。
彼の綺麗な鎖骨の脇に、自分の存在を誇示するようにつけられた赤い印。
彼が愛する女の人はいったいどんな人なんだろう
彼はどんなふうに女の人を愛するんだろう、と
すごくすごく不思議に思った。