【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
今まで散々彼の悪口を言っていたみんなも、顔を真っ赤にして口をつぐんだ。
一瞬にして静まり返ったあたしたちを見回して西野くんが小さく笑う。
ぞくり、と身体が震えるような美しい冷笑。
あたしはただぽかんと口をあけて西野くんの顔にみとれていた。
艶やかな長めの黒い髪も
男らしい首筋も
わざとゆがめるように笑う
意地悪そうな唇も
やっぱり悔しいくらいに魅力的だ。
バカみたいに口をひらいて放心したように西野くんにみとれていると
「悪い」
バカ面のあたしに向かってぽつりと言った。
「カバンとって」
あたしたちが邪魔で自分の机のカバンに手が届かなかったみたいで、慌ててあたしは彼のカバンに手を伸ばす。
「あっ、はい」
すると彼はカバンを受け取りまだ固まったままのみんなに背を向け平然と教室を後にしようとする。
「に、西野くんっ!」
気付けばあたしは彼の後姿に向かって声をかけていた。