【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「ずっと騙してたなんて、違うよ!! リョウくんはただ、あたしが貧血で具合悪くなっちゃったからタクシーで……」
感情的になった彼女に少しでも落ち着いてほしくてあたしが慌ててしゃべりだすと
「あんたは黙ってて!!」
ヒステリックに叫んで睨まれた。
彼女の勢いに圧倒され息を飲んだその時、ぞっとするほど冷たい声が部屋に響いた。
「……別に、ずっと騙されてたと思いたいならそう思えばいい」
激しく感情をむき出しにする彼女とは対照的に、リョウくんは綺麗な唇の口角を軽く上げ冷たく笑いながら言った。
「……なっ……」
リョウくんの言った意味がわからない様子で彼女が眉をひそめて言葉に詰まる。
「どうせ、俺が何をしてたって最初から信用できないんだろ? お前のくだらない妄想で責められるのもしつこく束縛をされるのも、もういい加減うんざりなんだけど」
リョウくんは落ち着いた冷ややかな表情で、押さえつけていた彼女の腕から手を離した。