【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「ねぇ、あたしの隣の西野くんって、どうして遅刻したりサボってばっかりなのに先生にあんまり怒られないんだろ?」
お昼休み
教室でクラスの女の子たちと机を合わせてご飯を食べている時に、サンドイッチをかじりながら聞いてみた。
私が『西野くん』という言葉を言った途端、笑顔からガラリと険しい顔に変わったみんなの表情を見て、なんかマズイ事でも聞いちゃったのかな、と思わず不安になった。
「ああ、実花は転校してきたばっかりだもんね」
一番面倒見がよくて姉御肌のみゆきちゃんが、あたしの顔を見てから教室の中に西野くんがいないか確認するようにぐるりとあたりを見回した。
「ねぇ実花、西野リョウには近づかない方がいいよ」
みゆきちゃんが険しい顔をして耳打ちするように囁いた。
「へ?どうして?」
確かに、彼には近寄りがたい雰囲気がぷんぷんしてるけど。
でも、タチの悪い不良には見えないし、特別危険な人物ではなさそうだけど……。
「この学校の女子ならみんな知ってるよ。すごいよね、奴の噂」
「うんうん、実花も気を付けた方がいいよ」
一緒にご飯を食べていたみんなが一斉にうなずいた。
「……噂?」