【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「リョウくん! 追いかけなきゃ!!」
ふたりきりになった部屋で、あたしは慌ててソファーから立ち上がりリョウくんに駆け寄る。
「追いかけてどうするんだよ」
リョウくんはひとり慌てるあたしを呆れたように見下ろして苦笑した。
「だって、彼女勘違いしてる! リョウくんが浮気してるって思い込んでるよ……!! 追いかけて、違うんだって説明してあげて」
必死にそう言うあたしの言葉を興味がなさそうに聞き流しながら、リョウくんは窓の外を見ていた。
嵐が過ぎ去った後のように
静まり返った室内に
窓を叩く雨の音がやけに大きく響く。
「きっと、彼女泣いてるよ。付き合ってたんでしょ? 好きだったんでしょ? 追いかけてなぐさめてあげてよ……」
この冷たい秋の雨の中で、あの華奢な彼女が泣いているかと思うとやりきれなくて涙が出そうになる。
「そんな無駄な事したくない。引き留めるのも追いかけるのもめんどくせぇ」
「どうして? あんなに綺麗な人に愛されてたのに、どうして突き放すの?」