【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 

地下鉄のホームへ続く階段を下り構内へと入る。

タイミングよく入って来た地下鉄に乗り込み少し込み合った車内でぼんやりと立っていると、見覚えのある人影をみつけた。

あたしから少し離れた場所に担任の加藤先生が立っていた。

……あ、先生だ。

声をかけようかな、なんて思っているとその隣に女の人がいることに気が付いた。

わぁ、あの人先生の彼女かなぁ。

なんて、すこしドキドキしながら離れた場所にいるふたりを観察する。


綺麗な人……。


顔はよく見えないけど、柔らかそうな雰囲気の綺麗な人だと思う。
リョウくんの彼女のような華やかな魅力ではないけど、また違ったタイプの美人さんだ。

先生、ああいう人と付き合ってるんだ……。

普段教師としての顔しか見せない先生の内面をのぞいてしまったようで、少し後ろめたい気分になった。

先生が、すこし屈んで彼女の耳元で何かを話す。
彼女はその言葉に小さく頷いて目を伏せて笑う。


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