【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
ジュースの自販機の前につくと、木暮くんはポケットから小銭を出してココアのボタンを押した。

「リョウならきっと屋上で寝てるんじゃない? 気になるなら行ってきたら?」

ガコン、と音をたてて落ちてきたココアを掴むとあたしに向かって放り投げる。

「わっ!」

突然飛んできたココアをなんとか両手で受け止めると、木暮くんはもう私に背を向けて歩き出していた。

「え!? 木暮くん!」

「そのココア、リョウに差し入れって持ってけば?」

ココアを持って困った顔をしているあたしに木暮くんは少し意地悪に笑った。

「うん、ありがとう!」
「どういたしまして」

教室に戻っていく木暮くんの後姿を見ながら、冷たいココアの缶を両手に握る。

あたしはまだドキドキとうるさい心臓を少しでも落ちつけようと何度も深呼吸した。



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