【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
「あ、あのね。これあげる」
「は?」

突然突き出されたココアの缶を受け取り、リョウくんは怪訝な表情であたしを見上げた。

「木暮くんから、差し入れ」

あたしがそう言うと、その長い指でココアの缶を持ち上げくるりと缶に書いてある文字を読んでから

「嫌がらせかよ」

と小さく笑った。

「えっ?嫌がらせ!?」

どうして?
びっくりしてあたしが尋ねると、リョウくんはめんどくさそうにため息をついて言った。

「嫌いなんだよ」

嫌いって、なにが?
ぽかんとして突っ立っていると

「甘いの、苦手なんだよ」

そう乱暴に言ってココアの缶をあたしの手の中に返した。

なんだ、ココアが嫌いって事か。
一瞬あたしが嫌いって意味かと思っちゃった。

「そうなんだ! 木暮くん、リョウくんが甘いの苦手って知らなかったんだね」

そう言いながら戻されたココアをどうしていいのか困る。

「自分が飲めば?」

途方にくれた私を見てリョウくんは冷たく言った。
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